大阪地方裁判所 平成6年(ワ)13016号 判決 1997年7月31日
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して金一億四一五四万八八五九円及びこれに対する平成七年一〇月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、原告と被告株式会社第一勧業銀行及び同石原貞裕との間に生じたものは、これを一〇分し、その二を原告の負担とし、その余を被告株式会社第一勧業銀行及び同石原貞裕の連帯負担とし、原告と被告第一生命保険相互会社との間に生じたものは、これを一〇分し、その六を原告の負担とし、その余を被告第一生命保険相互会社の負担とする。
四 この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。
理由
【事実及び理由】
第一 請求
一 被告第一生命保険相互会社は、原告に対し、金一億四四四一万七五三七円及びこれに対する平成八年三月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告に対し、連帯して金一億八〇八三万六〇七四円及びこれに対する平成七年一〇月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告は、被告株式会社第一勧業銀行(以下「被告第一勧銀」という。)の従業員である同石原貞裕(以下、「被告石原」という。)からいわゆる「相続税対策」のために被告第一勧銀から資金を借入れて変額生命保険(以下、「変額保険」という。)の保険料を一括払いして加入するよう勧誘され、被告第一勧銀から右保険料相当額等を借り受けて「以下「本件消費貸借契約」という。)、被告第一生命保険相互会社(以下「被告第一生命」という。)と別紙・契約一覧表記載の各変額生命保険契約(以下「本件各保険契約」という。「本件消費貸借契約」と併せて「本件各契約」という。)を締結したところ、被告石原や被告第一生命の従業員である訴外本多英郎(以下「本多」という。)らから変額保険の解約返戻金が本件消費貸借契約の元利金を下回る事態等が生じる危険性等について十分な説明を受けず、そのような危険がないものと認識のうえ本件各契約を締結するにいたったことを理由として、被告第一生命に対し、本件各保険契約の錯誤無効に基づく不当利得返還請求として、支払済みの保険料から解約返戻金を控除した金員相当額の返還を、また、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償として、本件消費貸借契約による支払利息相当額等の損害賠償を求めた事案である。
一 基礎となる事実(証拠等を付さない事実は、当事者間に争いがない。)
1 当事者等
(一) 原告等
(1) 原告(明治四〇年五月一九日生)は、平成元年七ないし八月当時、無職であり、兵庫県伊丹市《番地略》に一人で居住して生活していた。
(2) 本件各保険契約の被保険者らと原告の親族関係は、別紙4・親族関係図記載のとおりである。
(二) 被告第一勧銀の従業員
被告石原(昭和二五年三月一九日生)は、昭和四七年、被告第一勧銀に入社し、昭和六二年八月から平成元年一月まで赤坂支店の取引先課長、平成元年一月から平成三年七月まで伊丹支店副支店長を歴任し、現在、被告第一勧銀の関連会社である訴外勧業不動産株式会社に出向中である。
訴外高田信雄(以下「高田」という。)は、平成元年八月当時、被告第一勧銀個人財務サービス室部長補佐であった。
(三) 被告第一生命の従業員
本多(昭和六年一二月二五日生)は、昭和二九年四月、訴外日興証券株式会社に入社して証券外務員として登録された後、証券会社二社を経て、昭和五二年六月一七日、被告第一生命に入社し、同日、生命保険募集人として登録され、昭和五九年一一月ころには、被告第一生命における保険契約締結件数の全国第一位となったこともあった。本多は、平成元年一月一七日、変額保険販売有資格者としても登録され、平成元年八月ないし九月当時、被告第一生命新宿支社に所属し、法人を担当していた。
2 本件各変額保険契約の締結の経緯
(一) 本件各保険締結前の状況
被告石原は、平成元年八月二四日、原告及び訴外乙山春子(以下「春子」という。)に対し、被告第一勧銀伊丹支店(以下「伊丹支店」という。)において、「相続税対策」について説明し、その中で変額保険について言及し、さらに、高田は、同月二九日、同支店において、被告石原同席のうえ、原告及び春子に対し、変額保険について説明した。
これを受けて、原告は、「相続税対策」のために、被告第一勧銀から保険料相当額等を借り受け、これによって生命保険会社に保険料を一括払いして変額保険に加入する意向を示すようになった。
被告石原は、赤坂支店に勤務していたころに知り合った本多に対し、変額保険に加入することを検討している人物がいる旨伝え、原告の姓名、生年月日、保険加入予定者合計五名の生年月日を連絡した。
これに対し、本多は、被告第一生命新宿支社のオフィシャルプランナーに依頼し「ミリオン経過表」、「運用計画表」を作成させ、被告石原に対し、これらをファクシミリで送信した。
本多は、同年九月一日ころ、被告石原とともに原告宅を訪れ、原告に対し、前記ミリオン経過表及び運用計画表のほか、「変額保険設計書」五通、昭和六三年度変額保険(特別勘定)の現況」と題する書面(以下「特別勘定現況書」という。)を示し、変額保険について一応の説明も行った。
被告第一勧銀は、同月五日、原告に対する融資について稟議した。
(二) 本件各変額保険契約の締結
本多は、平成元年九月二三日、被告石原、被告第一生命保険大阪東支社所属の営業職員である訴外松岡幸代(以下「松岡」という。)及び被告第一生命大阪医務室所属の同中井庸夫(以下「中井」という。)とともに、平成元年九月二三日、原告宅を訪問した。
原告は、その際、別紙1・契約一覧表記載1ないし5記載の変額保険契約(「ミリオン(変額型)」、「ミリオン(変額型)」とは、被告第一生命が用意した終身型・保険料一時払型の変額保険を示す商標である。)についての生命保険契約申込書の契約者欄に署名押印した。
本多は、このころ、原告に対し、「ご契約のしおり--定款・約款」と題する冊子(以下「契約のしおり」という。)を交付した。
原告は、被告第一勧銀から、同月二八日、原告・被告第一勧銀間の当座貸越契約に基づいて、右保険料及び初年度の銀行金利分として合計四億三〇〇〇万円を借り入れ(本件消費貸借契約)、初年度利息(同日から平成二年九月一三日までの利息)二三五六万九八九〇円及び右契約証書貼付用の収入印紙費用一〇万円を控除した四億〇六三三万〇一一〇円を受領した。
原告は、被告第一勧銀に対し、右消費貸借契約に基づく債務を担保するため、別紙2・物件目録記載の各不動産(以下「本件不動産」という。)に根抵当権を設定してその登記をし、その登録免許税として一七二万円を負担した。
原告は、被告第一生命に対し、同年一〇月四日、別紙1・契約一覧表記載1ないし4の変額保険契約について、一時払保険料合計三億四六五三万六〇〇〇円を支払い、同年一一月二日、同表記載5の変額保険契約について、一時払保険料合計五三五二万円を支払った(本件各保険契約)。
(三) 原告は、被告第一勧銀に対し、平成四年九月二八日、本件各保険契約に基づく保険金及び解約返戻金の各請求権について質権を設定し、同年一〇月二日、被告第一生命はこれを承諾した。
被告第一勧銀は、このころ、別紙2・物件目録記載二及び三の不動産に対する根抵当権を放棄し、その設定登記の抹消手続を行った。
(四)(1) 原告は、被告第一勧銀に対し、平成六年八月二二日、本件消費貸借契約に基づく利息金として一億三二七四万二三三五円(ただし、利息のうち元本に組み入れられたものを含む。)、平成七年一〇月一八日、借入元本の一部として二九八七万三七三九円の合計一億六二六一万六〇七四円を弁済した(原告と被告第一勧銀及び被告石原との間では争いがない。)。
(2) 被告第一勧銀は、平成九年一月九日、本件各保険契約に関する前記質権を実行し、解約返戻金二億五五六三万八四六三円を回収し、被告第一生命は、支払保険料四億〇〇〇五万六〇〇〇円(別紙1「契約一覧表」参照)から右解約返戻金額を控除した一億四四四一万七五三七円を留保している。
二 主たる争点
1 本件各保険契約の締結について、原告に錯誤があったか
2 被告石原及び本多らの原告に対する本件各保険の勧誘行為が不法行為を構成するか
(原告の主張)
1 原告の資産状況等
原告は、丙川を退職した後は経済活動から遠ざかり、近年の経済動向等について知識も関心もなかった。
原告は、平成元年八、九月当時、合計約三億円の資産を有しており、このうち一億一〇〇〇万円は定期預金であり、その他は株式及び本件不動産等であったが、本件不動産は、原告ら家族の居住用のもので、処分を予定しておらず、また、株式も長期保有を予定していた。
原告の右資産に関して課税が予想される相続税は、配偶者控除を考慮すると、課税価格が約九四〇〇万円、相続税額が約三〇〇〇万円であったから、これを支払うには預金を取り崩せば足りるのであって、少なくとも本件のように四億三〇〇〇万円もの借入れをする必要はなかった。
2 本件各保険契約締結の経緯等
(一) 被告石原は、平成元年夏ころ、原告宅を何度か訪れ、原告に対し、原告に関する「相続税対策」の必要性を説き、銀行融資と変額保険加入を組合わせる方法が最も適当である旨説明し、「PF型相続対策ファイナンスプラン」と題する書面を示した。
また、高田は、同年八月二九日、原告及び訴外春子に対し、銀行融資と組合わせた変額保険に加入することが「相続税対策」として有利であると次のように説明した。
(1) 原告が死亡した場合、配偶者である訴外甲野花子(以下「花子」という。)及び長女である春子が相続人となるが、原告の自宅である土地建物は、地価の高騰により、これに関する相続税が多額にのぼり、納税のためには売却するしかない。
(2) そこで、相続税対策として、銀行から融資を受けて賃貸用マンションを建設することも考えられるが、管理が難しく、素人の手には負えない。
(3) 変額保険を用いる「相続税対策」は、最初に融資を受けて保険料を一括前払いし、変額保険に加入する方法であり、変額保険が運用により価値が増加しても、相続税法上、支払われた保険料が相続財産として評価されるため、支払保険料と実際の価値との差額が圧縮されることになり、相続税を節税することができるばかりか、右融資に対して金利を負担する必要がない。
(4) 基本保険金については一〇〇歳になっても保証される。
(二) 被告石原は、春子に対し、銀行からの融資に関しては大蔵省の指導により不動産を担保に供してもらわなければならないが、契約後二年が経過すれば、土地に対する担保は抹消し、変額保険の保険金請求権に対して質権を設定する方法に変更でき、そうなれば保険を解約することになった場合でも、その時点で借入金はすべて返済できるのであって、変額保険が組合わされた融資と住宅ローンとは全く異なっており、発想の転換が必要である旨説明した。
(三) 被告石原は、原告に対し、変額保険の運用利回りが九パーセント及び一二パーセントの場合の死亡保険金及び解約返戻金等が記載された「ミリオン経過表」及び「運用計画表」とそれぞれ題する書面を交付して説明し、また、「日経マネー」誌の変額保険運用一覧表を示して説明したが、右一覧表には運用実績が少なくとも一〇パーセント以上で、場合によっては、二、三〇パーセントになると記載されていた。
(四) 本多は、原告の資産や変額保険についての理解度等を全く調査しないまま、被告石原からの連絡によって、同年九月一日時点において、原告が既に加入の意思を固めていると理解し、原告に対しては変額保険について単に一通り、形式的に説明したのみであった。
(五) 原告及び春子は、以上の経過の中で、本件消費貸借契約については、通常の融資と異なり、変額保険によって担保され、保険の解約によって弁済できるものと認識し、変額保険についていわゆる元本割れが生じ得ることやその場合には、担保に供した不動産などを処分して借入金を支払わなければならないこと等は全く認識していなかった。
3 本件各保険契約の錯誤無効(被告第一生命に対し)
原告は、本件変額保険への加入は、「相続税対策」を目的としていることを表示し、かつ、被告石原及び本多の説明により、本件保険契約の支払保険料の運用益が本件消費貸借契約の利息を上回り、原告の死亡時には変額保険の解約返戻金によって本件消費貸借契約の元利金を返済できるものと誤信して本件各保険契約を申込み、契約の締結に至ったのであるから、原告の本件各保険契約締結の意思表示には要素の錯誤がある。
したがって、本件各保険契約は無効であり、被告第一生命は、原告に対し、前記一2(四)(2)記載の一億四四四一万七五三七円を不当利得として返還するとともに、右金員について、原告が返還を求めた平成九年三月七日の本件口頭弁論期日の翌日である同月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
4 被告石原及び本多の不法行為 (被告らに対し)
(一) 本件各契約は、不即不離の関係にあり、被告石原と本多の各行為には、次のとおり、強度の提携関係が認められる。
(1) 個人顧客が生命保険会社との間で保険料四億円もの高額の保険契約の締結に応じてもらったり、銀行から四億円もの融資を受けたりすることは、通常なら困難であるのに、本件各契約が組合わせられることによってこれらが容易になったのであって、両者の業務は、相互に補完されている。
(2) 被告石原は、変額保険の勧誘により、被告第一生命のほか、本多ら生命保険募集人から預金を獲得して銀行業務を拡大し、他方、本多も、被告石原の紹介により保険契約加入者を獲得した。
(二) 本件「相続税対策」商品の欠陥性
銀行から保険料を借り入れることと、これを保険料として生命保険会社に支払って変額保険に加入することは、相続税対策として不即不離の関係にあり、被告らは、これらを一体として 「相続税対策」商品(PF型プラン)ともいうべきものを販売していると解することができる。
しかし、右商品は、変額保険の固有の投資リスクに加え、銀行からの借入利息がいわば雪だるま式に増加し、借入金の完済ができない可能性を伴っている極めて危険性の高いものであり、これを販売すること自体、違法である。
被告石原は、原告に対し、右のように危険な商品を販売し、本多は、この販売に加担した。
(三) 仮に、本件各契約の締結が一体のものと観念できないとしても、被告石原及び本多の行為は、次のとおり違法である。
(1) 保険募集の取締に関する法律(募取法)九条違反
被告石原は、単なる保険紹介の域を超え、本件各変額保険の募集行為に該当する行為を行ったが、これは募取法九条に違反するものである。
また、本多も、原告に対し、資格のない被告石原を介して募集行為を行い、右違法行為を容認・利用したのであって、同様の責任がある。
(2) 適合性原則遵守義務違反・説明義務違反・断定的判断の提供等
イ 変額保険は、特別勘定の資産を投資等により運用するものであり、投資信託と類似の構造を有しており、その募集に際しては、募取法が適用されるほか、証券取引法が類推適用されると解すべきである。
したがって、生命保険募集人である本多は、本件各変額保険の勧誘に際し、証券投資勧誘時における適合性原則遵守義務(公正慣習規則第一号三六条、投資者本位通達)・説明義務・断定的判断提供の禁止義務(証券取引法五〇条一項、健全性準則二条一項)などと同様の義務を負っている。
また、変額保険の加入につき、銀行から融資を受けて一時払保険料を調達する場合には、前記(二)のとおり、変額保険固有の投資リスクに加え、借入金の完済が困難となるという、いわゆる「融資リスク」が存するから、本多は、原告にとって不測の損害が生じないように、この「融資リスク」についても正確に説明する必要があった。
ロ ところが、本多は、変額保険について形式的な説明をしたのみであって、前記一3(二)(2)ロの生保協会の自主規制によって必要とされる五項目の一般的説明や、投資リスクの存在についての説明義務に違反し、右説明をしなかった。
また、本多は、被告石原から紹介されるまま、原告らの属性や資産状態を自ら調査せず、原告をして四億三〇〇〇万円もの多額の借入金により保険料を調達させ、本件各変額保険を締結させたのであって、適合性原則遵守義務に違反した。
なお、契約のしおりや変額保険設計書の記載は、変額保険を平易かつ正確に説明し、あるいはその商品の特性や危険性を伝える内容となっておらず、単に右のような書類を交付しただけでは、到底説明義務を尽くしたとはいえない。
ハ また、被告石原は、銀行の従業員であるが、保険加入の勧誘を実際に行う以上、適正な保険の募集という募取法の趣旨から考えて、保険会社の外務員である本多と同様の義務を負うというべきである。
ところが、被告石原は、原告及び春子に対し、甲第一ないし第三号証といった私製資料や、過去の一定期間の実績のみが記載された「日経マネー」誌の運用実績表を示し、変額保険の運用実績が銀行金利を下回ることはないと説明し、断定的判断の提供をした。しかも、右運用実績表は、特別勘定に関するもので、投入保険料の運用実績ではなく、重要事項に関し虚偽の説明となっている。
また、石原は、原告について前記のように「相続税対策」が必要なかったのに、原告の資産について考慮せず、原告をして四億三〇〇〇万円もの借り入れをさせたのであって、原告の資産に関する適合性原則遵守義務に違反した。
さらに、被告石原は、本件各保険契約において基本保険金が一〇〇歳まで保証されているとのみ説明し、その間の金利について説明せず、(たとえば、訴外乙山春夫(以下「春夫」という。)の場合、金利五・七パーセントで計算すると、一〇〇歳までの四三年間の借入元利金合計は四六億円になる。)、説明義務に違反した。
5 被告らの不法行為責任
(一) 被告石原は、原告に対し、本多と共同して不法行為を行ったのであるから、連帯して、原告に生じた損害を賠償すべき責任を負う。
また、被告石原及び本多は、それぞれ、被告第一勧銀の従業員、被告第一生命の従業員であり、その各不法行為は右各社の事業に執行につきなされたものである。
したがって、被告第一勧銀及び被告第一生命は、原告に対し、民法七一五条に基づき、被告石原と連帯して、原告が被った損害を賠償すべき責任を負う。
(二) 損害
(1) 出捐金額 一億六四四三万六〇七四円
原告は、被告第一勧銀に対し、前記一2(四)(1)のとおり、本件消費貸借契約に基づく一部弁済として合計一億六二六一万六〇七四円を支払い、また同(二)のとおり、根抵当権設定登記費用として一七二万円及び本件消費貸借契約書作成の印紙代として一〇万円を負担した。
(2) 弁護士費用 一六四〇万円
(3) 合計 一億八〇八三万六〇七四円
(三) よって、被告第一勧銀、被告石原及び被告第一生命は、原告に対し、連帯して、一億八〇八三万六〇七四円及びこれに対する平成七年一〇月一八日(最終支払日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を払う義務を負う。
(被告第一勧銀及び被告石原の主張)
1 本件経緯等
原告や春子は、もともと原告及び花子の「相続対策税」として、原告の所有する不動産の所有名義を分散するなどしていたが、原告は、平成元年八月二二日、伊丹支店の渉外担当者である訴外小原功(以下「小原」という。)に対し、原告宅において、相続税の負担を軽減する方法について相談していたのであり、被告石原が何度も原告宅を訪れ、原告に「相続税対策」を勧めたことはない。
被告石原は、原告及び春子から、同月二四日、伊丹支店において、相続税対策について助言を求められ、一般的な知識として、借入金で賃貸マンションを取得する方法、変額保険を用いる方法及び店頭株式やゴルフ会員権を購入する方法について説明し、税理士等の専門家と相談して決めるよう勧めたところ、原告らが変額保険に興味を示したため、同日ないし後日、乙第一号証(契約のしおり)を示して、その内容を説明した。
被告石原は、その際、原告らに対し、自分には保険を勧誘する資格がないから、詳細は保険会社の担当者に尋ねてほしい旨告げ、原告らもこれを了解した。
高田は、同月二九日、原告及び春子に対し、「相続税対策」の概要、変額保険の仕組み及びそれがハイリスクハイリターン商品である旨説明した。ただし、運用実績の具体的な数字について一切言及しなかった。
原告は、同年九月一日、本多から変額保険について説明を受けた後、変額保険について十分理解し、長短を勘案・考慮のうえ、変額保険に加入したのである。
2 保険契約と融資契約は法律上別個のものであって、被告第一勧銀や被告石原は、原告に対し、本件変額保険に関する説明義務を負っていない。
また、本件各契約は、一体のものではなく、これを一個の「相続税対策」商品と観念することはできない。
3 信義則上の説明義務等について
被告第一勧銀らは、原告に対し、信義則といった一般条項によって直ちに説明義務等を負うに至るわけではない。
仮に、被告らが説明義務を負うとしても、被告石原は右義務を尽くしており、その行為に違法性はない。
(一) 被告石原は、原告から求められて、顧客サービスの一環として変額保険について説明したにすぎず、その加入を積極的に勧誘したわけではない。
(二) 原告は、多数の株式など相当な資産を有しているうえ、不動産業を営む丙川の元代表取締役であって、現在もその大株主であり、個人として株式を購入した経験も有している。
原告は、また、平成元年八月二四日には、春子を同行して被告石原に助言を求めており、変額保険の仕組みを理解するだけの経験・能力を有している。
原告は、変額保険の長短を理解したうえ、「相続税対策」としてマンション経営より変額保険に加入した方が有利であると判断して、変額保険を選択したのであって、春子やその夫で大学教授である訴外乙山春夫も変額保険加入の可否を検討している。
このような場合、被告第一勧銀らは説明義務や適合性遵守義務等を負わないと言うべきである。
(三) 原告は、被告第一生命ないし本多から変額保険設計書等の変額保険に関する資料の交付を受けており、被告第一勧銀らがさらに説明する必要はない。
(四) 被告石原、高田、本多は、原告に対し、変額保険の仕組等について十分に説明している。
(被告第一生命の主張)
1 被告石原ないし本多が原告に対し、銀行からの借入れとその借入金による変額保険加入を組み合わせた金融商品の購入を勧誘した旨の原告の主張は失当である。両契約は法律上、別個のものであり、これを一体として観念する余地はない。
2 説明義務等について
(一) 説明義務の範囲
変額保険は、それ自体一つの独立した契約であり、「相続税対策」を念頭において設計されたものでない。被告第一生命は、相続税等に関する専門家でなく、原告に対し、借入金で保険料を支払う際の危険性を説明すべき義務を負っていない。
(二) 原告は、経済活動に秀でており、投資経験もあり、被告石原の説明等により変額保険についての知識や変額保険を利用した「相続税対策」の仕組みに関する知識は十分にあった。
したがって、被告第一生命としては、変額保険について、契約のしおり及び変額保険設計書を交付して説明を行えば十分というべきである。
本多は、原告に対し、右書面を交付のうえ、変額保険の仕組み等について一時間ないし一時間半にわたって説明をしたから、説明義務やその他の義務に違反していない。
3 錯誤の不存在について
原告は、変額保険の仕組み・特質や、変額保険を利用した「相続税対策」の仕組み等について理解したうえ、本件各保険契約を締結しているもので、これに関する錯誤はない。
第三 争点に対する判断
一 原告の資産状況等
前記基礎となる事実に加え、《証拠略》によれば、次の各事実が認められる。
1 原告 (明治四〇年五月一九日生)は、旧制中学校卒業後、造船会社勤務、兵役等を経て、昭和三六年二月から不動産の売買・賃貸等を業務とする訴外丙川株式会社(以下「丙川」という。)の代表取締役の地位に就き、自動車学校やテニスコートの運営、マンションの建設・賃貸等に従事していた。原告は、昭和五四年八月右代表取締役を退任して無職となり、爾来、年金(月額二〇万円) 及びその保有している丙川の株式の配当によって生計を維持していたが、昭和六一年一二月四日、丙川の所有全株(三万七三〇〇株)を一億六七八五万円で売却し、右代金の一部を兄弟に分配したのち一億一〇〇〇万円を預金し、以後、年金と右預金の利息によって生計を維持している。
平成元年七月ないし九月当時、兵庫県伊丹市《番地略》に一人で居住し、版画を趣味として生活している。
2 原告の妻甲野花子(以下「花子」という。)は、昭和六一年ころから、うつ病のため一切の家事に興味を示さなくなり、平成四年ころから、病気静養のため春子宅において生活するようになり、原告は、別紙2・物件目録一2記載の建物で一人で生活するようになった。
原告は、平成元年八月ないし九月当時、右預金のほか、別紙2・物件目録記載の各不動産に対する共有持分、別紙3・保有株式一覧表記載の株式を資産として保有していたが、別紙2・物件目録二1、2記載の土地建物は、春子夫婦が居住し、同目録三1、2の土地建物は春子らの子である訴外丁原夏子(以下「夏子」という。)、同夏夫(以下「夏夫」という。)夫婦が居住している。
原告所有の株式の大部分は、その父松太郎から相続した株式が無償増資等により増加したものである。
3 原告は、被告第一勧銀と、その前身である第一銀行時代から預金取引があり、伊丹支店の設置時から右支店と預金取引をしていた。
被告第一勧銀は、昭和六一年一二月ころ、伊丹支店における原告の預金が一億円を越え、個人顧客の中で最も大口の預金者であったことから、その歓心を買うため、原告作成の版画などを伊丹支店に展示するなどした。
原告は、伊丹支店の従業員の勧めもあって、別紙2・物件目録三2の建物の建築費用を捻出するために、被告第一勧銀と昭和六三年九月二九日、銀行取引約定を締結し、定期預金を担保にして、同年一〇月三日に七一一万円、同年一二月一二日に一一四八万円をそれぞれ借り受け、平成元年三月、定期預金を解約して返済した。原告は、これ以外に、銀行から融資を受けて不動産等を購入したことはない。
春子は、平成元年八月ないし九月当時、無職であり、春夫とともに、別紙2・物件目録二2の建物新築の際に、いわゆる住宅ローンとして一五〇〇万円を融資された以外には金員の融資を受けたことはなかった。
二 本件各契約の締結とその後の経緯等
前記基礎となる事実に加え、《証拠略》を総合すれば、次の各事実が認められる。
1 平成元年八月二四日まで
(一) 被告石原は、平成元年一月末ころまで、被告第一勧銀の赤坂支店に勤務していたが、右当時、被告第一生命及び訴外朝日生命保険相互会社(以下「朝日生命」という。)の変額保険の保険料の融資を担当したことがあった。被告石原は、そのころ、本多と知り合い、本多に対し変額保険に加入する顧客を紹介し、その見返りに本多から被告第一勧銀の赤坂支店等に預金してもらったことがあった。
被告石原は、伊丹支店に副支店長として転入してから、部下に対し、いわゆる資産家の顧客との取引に際しては、「相続税対策」などを話題とするよう指導し、訴外株式会社アリコジャパンの発行した「PF型相続対策・ファイナンスプラン」と題する書面(甲第一号証)のコピーを、被告第一勧銀伊丹支店の従業員らが参加した勉強会などの機会に交付した。
甲第一号証は、変額保険について、生命保険会社と金融機関が提携して運営されるもので、顧客が現金支出の負担が回避できること(「Pay Free」)、相続財産の評価を下げるため土地を担保に「Pay Free型借入」を行わせること、相続の際、当初借入金を上回る借入金が純債務額になって、相続税額を減少させる一方、変額保険の資産価値は運用によって増大し、数年間で返済原資を確保できる見込である上、相続時の保険資産としての評価は払込保険料相当額のままであるから含み益が生ずること、変額保険を現金化する場合、契約者に対する貸付を利用すれば、妻子に対する死亡保険金の保障を一生涯にわたって存続させることができ、二次、三次相続まで一度の変額保険加入によってまかなわれる旨記載され、その仕組図として、土地価格と保険資産価値の急激な上昇を示す線が描かれ、その線を基準に含み益の発生等が図示されている。
(二) ところで、原告は、平成元年当時、伊丹支店における個人顧客の中で最も大口の預金者であったので、伊丹支店の従業員から丁重に応対され、来店の際には、支店長や副支店長である被告石原が応対し、また、被告石原も原告宅を表敬訪問するなどしていた。
被告石原は、同年一月から六月ころまで、原告の自宅を四ないし六回、訪問したり、原告が伊丹支店に来店した際に、原告が資産家であることから、しばしば、「相続税対策」の必要性について言及し、その際、当時の地価高騰により、東京の八百屋某が「相続税対策」を怠っていたため、店をたたまなければならなくなったとか、京都でも同様の事例があったことなどを話題とした。
しかし、同年六月、訴外檀正敏(以下「檀」という。)が伊丹支店長として着任すると、顧客訪問のためしばしば伊丹支店を不在にするため、被告石原は、その後は、原告宅を訪問できなくなった。
花子は同年六月ころ入院し、また、原告自身も、同月下旬ころから同年七月二五日まで前立線肥大の治療のため入院した。
原告は、右入院の際、「相続税対策」について不安になり、同年八月二二日ころ、預金の入出金等の手続のため原告宅を訪れた小原に対し、被告石原と相続税対策について相談したい旨申し向けた。
2 平成元年八月二四日から同年八月下旬ころまで
(一) 原告及び春子は、平成元年八月二四日、伊丹支店において、被告石原に対し、「相続税対策」について助言を求めた。
被告石原は、「相続税対策」としては、借入金により賃貸マンションを取得する方法、変額保険を用いる方法及び店頭株式やゴルフ会員権を購入する方法を挙げて説明し、どれがよいかは税理士等の専門家と相談のうえ決定するように告げたうえ、店頭株式やゴルフ会員権を購入する方法は、被告石原個人としては得策でない旨、また、賃貸マンションを取得する方法は、手間もかかり、難点もあるので勧められない旨述べた。
そして、被告石原は、原告及び春子に対し、変額保険の仕組みについて、「PF型相続対策・ファイナンスプラン」と題する書面(甲第一号証)のコピー(もとの資料では表紙にアリコの会社名が表示されていたが、被告石原はこれを抹消した。)を交付し、また、わら半紙に、保険金の変動及び基本保険金を示す直線と波形のグラフを記載して、これを示しながら、次のように説明した。
(1) 保険料は契約の際に一時払するものとされ、払込保険料のうち、一部が死亡保険金に対する保険料となり、約三〇パーセントは保険会社が株式に投資し、残りは公社債等に投資して運用する。これらの運用はプロが行うから心配はいらない。
基本保険金は、一人当たり最高三億円である。
(2) 死亡保険金は、保険会社の運用実績によって増減するが、基本保険金の三億円は保証されている。死亡保険金は、被保険者が一〇〇歳になって死亡した場合でも支払われる。
(3) 解約はいつでも可能であるが、解約返戻金は、保険会社の運用実績に応じて変動する。
(4) ただし、契約当初に解約すると、払込保険料より解約返戻金が下回って損をする。
(5) 変額保険は、価値が下がることがあるが、それは一時的なもので、いずれ回復するから、価値が下がった場合は回復するまで放置するのがよい。
(6) 変額保険の保険料は、銀行からの借入金で支払われるが、借入金の利息は配当金でまかなわれるから負担する必要がない。
(7) 右借入によって債務が増加するから、原告の相続財産の全体の評価額が下がる。保険の価値は保険会社の運用によって上がるが、相続財産としての評価は払込保険料が基準となるから、その部分に積極財産の「圧縮」が生じ、「相続税対策」としての効果を発揮する。
(二) ところで、被告石原は、原告及び春子に対し、「日経マネー」誌の変額保険運用一覧表を示して、これまでの運用実績のうち一番下がったところが九・五パーセントであり、二〇ないし三〇パーセントで運用された例もある旨述べたが、運用実績が〇パーセントや四・五パーセントに止まる場合については説明しなかった。
また、被告石原は、原告らに対し、高田が同月二四日伊丹支店を巡回する予定になっているから、来店して高田の話を聞くよう勧め、原告らはこれに応じることにした。
なお、原告及び春子は、被告石原から前記のとおり変額保倹に関する説明をうけたが、これに対し、特に質問をしなかった。
(三) 被告石原は、本多に対し、変額保険に加入したい資産家がいる、変額保険について見積もりがほしいので、被告第一生命内で優秀な人を紹介してほしい旨告げた。
本多は、被告石原に対し、自分が契約に赴き、その後は、被告第一生命の大阪における優秀な営業職員に担当される旨述べ、本多が保険契約の締結を担当することになった。そして、本多は、被告第一生命の新宿支社次長から松岡を紹介され、松岡が右契約後の担当者となることが予定された。
本多は、被告石原から、被保険者一名当たりの基本保険金を三億円とし、被保険者を五名とすることやその生年月日・性別を伝えられ、被告第一生命本社の「オフィシャルプランナー」に右五名を被保険者とする「ミリオン経過表」、「運用計画表」を作成させ、被告石原に対しこれらをファクシミリにより送信した。
(四) ミリオン経過表には、その右側欄外に手書きで年齢と性別が記載された被保険者五名について、基本保険金を三億円とした場合の一時払保険料が記載され、また各特別勘定の運用率が九パーセント及び一二パーセントとした場合の一ないし五年、七、一〇、一五、二〇年後の解約返戻金の額、三、五、一〇年後の死亡保険金の額がそれぞれ記載されている。
運用計画表には、ミリオン経過表と同じ経過年数毎に、借入金(借入利率年利五・七パーセント、次年度以降の利息金を追加借入れとする。)、その累計、投入保険料、相続時純負債、特別勘定運用率が九パーセントと一二パーセントの場合の解約返戻金及び運用益の各金額がそれぞれ記載されており、相続時純負債と運用益については次の趣旨の文言が記載されていた。
(1) 相続時純負債
当該保険契約の相続評価は、払込保険料額に基づいて行われるから、相続発生時の借入累計額との差額が純負債額となり、相続財産の圧縮ができる。
(2) 運用益
相続発生後、解約清算した場合、受取金から借入累計額を返済しても表記金額を得られる。ただし、解約返戻金は特別勘定運用率により変動する。
(五) 高田は、同月二九日、伊丹支店において、石原同席のうえ、原告及び春子に対し、紙に計算式等を表示しながら、三〇分程度、「相続税対策」と変額保険の仕組み等について説明したものの、その内容は被告石原の説明とほとんど変わらなかった。もっとも、原告らは高田に対し特段の質問等はしなかった。
また、被告石原は、原告に対し、ミリオン経過表、運用計画表の写しを交付し、保険料四億円は不動産を担保として被告第一勧銀から借り入れることになること等を説明した。
春子は、四億円にのぼる保険料を不動産を担保にした借入によって支払うことに不安を表明したが、被告石原は、春子に対し、大蔵省の指導に基づいて土地を担保に供してもらうが、二年経過し、保険会社が変額保険に対する質権の設定を承諾すれば、不動産担保の登記を抹消できる、このような借金は住宅ローンと全く次元が異なるもので、発想を変える必要がある、金利は年五ないし六パーセント程度で高くはないし、一年目の利息は被告第一勧銀が融資し、二年目からの利息は変額保険の配当金から支払えばよい、「相続税対策」の効果を挙げるには、借入額をできるだけ多くするため限度一杯まで変額保険に加入するのがよいと説明し、変額保険への加入を勧めた。
原告及び春子は、銀行の勧めることに間違いはない、二年経過して不動産担保の登記を抹消し、変額保険の保険金請求権に対して質権が設定されれば、変額保険の解約により被告第一勧銀に対する借入金を返済することができること、右借入金の利息も実質的には負担する必要はないものと考え、被告石原の勧めに応じる意向を固めた。
こうして、原告は、被告石原の勧めに応じて被告第一勧銀から四億三〇〇〇万円を借り入れ、被告第一生命の変額保険に加入することにした。
3 平成元年九月ないし一一月ころまで
(一) 本多及び被告石原は、同年九月一日ころ、原告宅を訪れ、原告は、一人で対応した。
本多は、被告石原から、原告が変額保険に加入する意向であることを聞かされており、その際、原告の年齢や保険金額から考えて、右加入がいわゆる「相続税対策」を目的とすることを承知しており、原告の加入が被告石原の紹介に基づくものであることから、原告が被告第一勧銀から変額保険の保険料を借り入れる予定であることを当然の前提として考えていた。
本多は、原告との会話から、原告が既に変額保険に加入する意思を固めていることを知り、直ちに、原告に対し、ミリオン経過表、運用計画表の各原本、変額保険設計書五通、特別勘定現況書を交付した。なお、本多は、その際、原告に対し、変額保険の仕組みやそれへの加入が「相続税対策」となりうる理由についてどの程度理解しているかを確認するための質問等はしなかった。
そして、本多は、被告石原からこれまでに顧客を紹介された際の被告石原の説明の様子から、被告石原は原告に対し、本件変額保険について十分に説明をしていると考えていたので、被告石原に対して、変額保険の理解の程度等を確かめる質問をしたり、原告に対し、変額保険をどのように説明したのかなどは尋ねなかった。
また、本多は、被告石原から原告が大変な資産家であると聞かされていたものの、自ら原告の資産を調査したり、原告に対しその状況を尋ねるようなことはなかった。
本多が原告に交付した変額保険設計書には、変額保険の保険金額が「特別勘定」の運用実績によって乙第七ないし第一一号証の図面のように増減し一定しないこと、死亡高度障害については基本保険金として三億円が最低保障されること、保障は一生涯続くこと、六五歳ないし七〇歳時に一生涯保障から年金に移行することができること、特別勘定の資産の運用実績が九パーセント、四・五パーセント、〇パーセントの各場合について、死亡・高度障害保険金、解約保険金が、経過年数が三年、五年、一〇年等の場合について例示されていた。
また、例示された数値が特別勘定の運用実績及び配当実績によって増減し、将来の支払額を保障したものでないこと、例示の数値は配当金を組み入れてあること、定額保険の配当方式とは異なること、特別勘定の運用実績であって保険料全体に対するものでないこと等も記載されていた。
また、夏夫、夏子、秋夫の変額保険設計書には基本保険金が一億円と印字され、その額に副った一時払保険料及び運用実績等の金額が印字されているが、左上の「基本保険金」欄は三億円と訂正され、「図1」の基本保険金の金額の下に「三億円」と記載されている。なお、一時払保険料も印字された額の三倍の金額が記載されているが、「図2」の基本保険金や運用実績等の金額は訂正されていない。
「特別勘定現況書」は、本多が被告第一生命本社から送付されたもので、<1>昭和六三年度末(同年三月三一日)時点の特別勘定資産の内訳(現金及び預貯金--八・六パーセント、公社債--三四パーセント、株式--四四・二パーセント等)、<2>右年度末とその前年度末の主要株式銘柄、<3>特別勘定の運用収支状況、<4>契約月別の運用実績の例(昭和六一年一一月一日から昭和六三年四月一日までの契約月別運用実績が、同年一月一日--二七・五四パーセント、同年四月一日--一一・三一パーセント等と記載されている。)、<5>契約数・契約金額、<6>当期の運用経過(「良好な運用実績となった。今後は市場の変動性が高まると予想されるので、その動向を注視しながら柔軟に対処したい。」などとある。)と記載されている。
本多は、原告に対し、変額保険について、前記変額保険設計書の図を示しながら、約四〇分間、次のとおり説明した。
(1) 変額保険は、死亡保険金と解約返戻金の両方について運用実績を反映して増減する。
(2) 運用実績が悪くても、死亡又は高度障害の場合の基本保険金は給付されるが、解約された場合には最低保障はない。
(3) 借入金を変額保険の保険料として支払えば「相続税対策」になる。その理由は、
イ 借入金の金利相当分だけいわゆる負の資産が増加し、将来の相続税が軽減される。
ロ 特別勘定の運用実績がよければ解約返戻金が増加するが、相続税の課税対象として評価されるのは最初の払込金額のみであり、差額分について利益が生ずることになる。
しかし、本多は、原告が高齢で被保険者となる資格がなかったため、被保険者を原告とする方法があることや、被保険者を原告とする場合と別紙1・「契約一覧表」記載の五名とする場合の差異については説明しなかった。
また、本多は、「有期型」については、その保険料が小口でしかも月払とすることが多く、相続税対策として適当ではないと考え、原告に対して説明しなかった。
さらに、本多は、借入金利息と特別勘定での運用益との関係についても、一切説明しなかった。
原告は、本多の説明に対し何ら質問をしなかった。
(二) 被告第一勧銀は、平成元年九月五日、原告に対する変額保険の保険料の融資について稟議した。
他方、被告第一生命は、夏夫、夏子及び秋夫が若年のため基本保険金を二億三〇〇〇万円とすることとし、生命保険申込書に右金額及びそれに対応する保険料を印字したが、本多から基本保険金を三億円とするように要請され、基本保険金を三億円とし、保険料も別紙1・契約一覧表3ないし5のとおりとした。
(三) 本多は、平成元年九月二三日、被告石原、松岡及び中井とともに、春夫宅を訪れ、原告のほか、春夫、春子らと面談した。
被告石原は、特別勘定の運用実績を挙げて、銀行利息より変額保険の運用の方がよい旨説明し、また、本多ないし松岡は、被告石原から聞いた情報に基づいて、生命保険契約申込書の裏面の「副申書」欄に、原告の勤務先を「市岡自動車教習所」、仕事の内容を「経営者」、推定資産を「数十億円」(正しくは、原告は無職であり、その保有資産も預金・株式・不動産等で約三億円である。)、春夫の勤務先を「戊田病院」(正しくは「甲田病院」である。)、夏夫の仕事の内容を「教授」(正しくは大学の教職員である。)とそれぞれ記載した。本多及び松岡は、原告に対し、勤務先、仕事内容、資産等について何ら尋ねなかった。
原告は、本多又は松岡から指示されたとおり、別紙1・契約一覧表1ないし5記載の変額保険契約に関する生命保険契約申込書の「契約者」欄に署名押印し、本多から、契約のしおりを交付され、前記生命保険契約申込書の表面の契約のしおり受領欄に押印した。
契約のしおりは、被告第一生命の取り扱っている五種類の変額保険の定款・約款及びその概要説明が記載された本文が黒と緑の二色刷の三三〇頁を超えるものであり、その中で、「ミリオン(変額型)」について保険金額が資産の運用実績に基づいて増減する生命保険で、定額保険(保険期間中、保険金額が一定の生命保険)とは異なること、その特徴として、資産の運用実績に基づいて保険金額が増減し、死亡・高度障害状態に該当すれば、運用実績に応じた保険金額を死亡・高度障害保険金として支払うこと、保険金額が基本保険金額を下回るときでも、基本保険金額を最低保証することなどが記載され、また、「19 ご契約の解約と解約返還金」の節において、解約返還金が多くの場合、払い込まれた保険料より少ない金額となり、特に契約後短期間で解約されたときはまったくないか、あってもわずかである旨黒字で印字され、緑色の網掛け印刷がなされている。
春子、春夫、夏子及び夏夫は、右生命保険契約申込書の表面の被保険者欄に署名押印し、中井に対し、病歴等の右契約書所定の告知を行い、中井から検診を受けた。また、原告、夏子及び夏夫は、本多又は松岡から指示されて、「基本保険金」欄と「保険料」欄を訂正する旨の「申込書内容訂正請求書兼変更承諾書」に署名押印した。
(四) 被告第一勧銀は、原告に対し、平成元年九月二八日、原告・被告第一勧銀間の当座貸越契約に基づいて、右保険料及び初年度の利息として合計四億三〇〇〇万円を貸し付け、原告は、被告第一勧銀から初年度利息(同日から平成二年九月一三日までの利息)二三五六万九八九〇円及び金銭消費貸借契約証書貼付の収入印紙費用一〇万円を控除した四億〇六三三万〇一一〇円を受領した。
また、原告は、被告石原から、消極財産を増加した方が「相続税対策」になると勧められ、同日、被告第一勧銀との間で、その後に発生する利息を当面は借入元本に組み入れる旨合意した。
原告は、被告第一勧銀に対し、右消費貸借契約に基づく債務を担保するため、別紙物件目録記載の不動産に根抵当権を設定してその登記手続をし、登録免許税として一七二万円を負担した。
(五) 原告は、被告第一生命に対し、平成元年一〇月四日、別紙1・契約一覧表記載1ないし4の変額保険契約について、一時払保険料合計三億四六五三万六〇〇〇円を支払い、右各契約が成立した。
被告第一生命は、原告に対し、右各変額保険契約につき、「変額保険」と記載された保険料充当金領収証を送付した。
(六) 松岡及び被告石原は、同月一九日、秋夫が当時居住していた松山に赴き、被告第一生命松山支社所属の訴外神田隆(以下「神田」という。)と共に、秋夫と面会した。
秋夫は、松岡の指示に基づいて、原告が既に署名押印していた乙第六号証の1(生命保険契約申込書)の被保険者欄に署名押印し、また、神田に対し、病歴等の右契約書所定の告知を行って検診を受けたうえ、「基本保険金」欄と「保険料」欄を訂正する旨の「申込書内容訂正請求書兼変更承諾書」に署名押印した。原告は、同年一一月二日、被告第一生命に対し、別紙1・契約一覧表記載の5の変額保険契約について、一時払保険料合計五三五二万円を支払い、右契約が成立した。
3 本件各契約締結以後
(一) 本多は、平成元年一二月ころ、被告石原と協議のうえ、原告を大阪市内の料亭「芝苑」に招待した。しかし、原告は出席せず、代わりに春子及び夏子が出席した。被告第一勧銀からは被告石原、壇支店長外数名が、被告第一生命からは本多ほか数名が出席した。
春子は、被告石原ら被告第一勧銀の従業員に対し、本件融資等が高額で恐ろしい、何年か経過すれば、原告の居宅は被告第一勧銀の社宅になっているのではないか、と感想を述べたが、被告石原は、絶対にそのようなことはない、戦争でもない限り損をすることはない、絶対に大丈夫である、変額保険は、保険会社、銀行、契約者の三名が得をする契約であって、銀行が客を騙すはずはないなどと応じた。
(三) 被告第一生命は、原告に対し、毎年一一月ころ、本件変額保険の運用実績を記載した「ポピーだより」及び「変額保険金のお知らせ」並びに「変額保険のしくみ」と題する各書面をまとめて送付していた。
原告らは、平成二年一一月ころ、右書面を受け取ったものの、記載された運用実績の読み方が分からなかったので、被告石原に読み方を尋ねた。右書面によると、解約返戻金が支払保険料より少なくなっていたが、被告石原は、生命保険の契約当初は一般にそのようなことがあるが、放置しておけばよい旨説明し、原告らは、これにしたがって、そのまま放置した。原告は、平成三年一〇月ころ、伊丹支店の担当従業員に対し、前記不動産の担保に関する登記を抹消するよう依頼したが、被告第一勧銀は、変額保険の価値が下がっているため、不動産三件に関する抵当権を抹消できない旨回答した。
原告は、被告第一勧銀に対し、その後交渉を続け、平成四年九月、前記第二・一2(三)のとおり、本件各保険契約に基づく保険金及び解約返戻金の各請求権について質権を設定し、被告第一生命から右質権設定の承諾を受け、被告第一勧銀は別紙2・物件目録記載二、三の各不動産に対する根抵当権を放棄し、その設定登記を抹消した。
しかし、原告は、同目録記載一の不動産について根抵当権が存続していることを不満とし、弁護士に相談した結果、平成六年一二月本件訴訟を提起するに至った。
《証拠判断略》
三 要素の錯誤について(争点1)
1 前記二1、2によれば、原告は、本件各保険契約の締結に際し、その動機が「相続税対策」であることを表示し、本多もこれを了解していた。そして、原告は、本件変額保険の運用実績が本件消費貸借契約の利息より高額であり、変額保険の保険金請求権に質権が設定されれば、原告所有の不動産に対する担保権が解除され、変額保険の解約返戻金によって被告第一勧銀に対する借入金を弁済することができるものと考えていたのであり、前記のとおり、被告石原及び本多の変額保険の勧誘の際の説明は、原告に対し、変額保険の運用実績の予測に関して、本件消費貸借の利息よりも高額となることが見込まれ、本件各保険契約の解約返戻金によって被告第一勧銀に対する借入金を返済することができるとの期待を抱かせる内容となっていたもので、原告は、その期待の下に本件各保険契約を締結したものと認められる。
一方、原告ないし春子は、被告石原ないし本多から、契約のしおりの交付を受け、本件各保険契約の締結に至るまでに変額保険の保険金や解約返戻金の額は保険料の運用実績によって変動し、基本保険金額が保障される他は、元本等の最低保障がなく、保険金や解約返戻金の額が支払保険料を下回ることがある旨の説明も受けている。
また、被告第一生命は、毎年一一月ころ、原告に対し、本件各保険の運用実績、保険金及び解約返戻金を記載した「ポピーだより」及び「変額保険金のお知らせ」と題する書面を送付していたところ、右書面によれば本件各保険の解約返戻金が支払保険料の額を下回っており、原告及び春子は、平成二年一一月ころ、右事実を知ったが、被告石原から放置しておけばよいと助言され、被告石原に対し約束違反である等として抗議することなく、被告石原の助言に従ってそのまま放置した。
したがって、原告は、被告石原らから前記のとおり変額保険の保険金や解約返戻金は運用実績によって変動し、元本保証のない旨の説明を受けているのであり、平成二年一一月ころには本件各保険が元本割れしていることを知ったが、これについて被告らに対して抗議していないことからすれば、本件各保険について、被告石原らの説明により変額保険が銀行利息よりも有利に運用されるとの期待を抱き、これが元本割れするおそれがあることを具体的に認識しなかったとしても、その可能性があること自体は抽象的にせよ認識していたものと認めるのが相当である。
原告は、丙川の代表者として、長年、不動産の建設・賃貸、自動車学校の運営に当たってきた者であり、本件各保険契約の締結時には、退職後約一〇年を経過し、また当時、満八二歳の高齢となってはいたが、理解能力が減退していたことは窺えない。
そうすると、本件各保険契約締結当時、いわゆるバブル経済の絶頂期であって株価及び不動産価格が高騰し、好景気に沸いていた時期であることは公知の事実であり、被告石原らも変額保険の運用実績が銀行からの借入利息を上回ると予想し、原告らにこれを説明したのであるが、原告も、本件各保険について、被告石原らの予想に同調して、本件各保険契約の締結に至ったものと認めるのが相当であるから、本件各保険契約の締結について原告の意思表示に要素の錯誤があるということはできない。
したがって、これと異なる前提に立つ原告の被告第一生命に対する不当利得金返還請求は、その余の点を検討するまでもなく理由がない。
四 被告らの説明義務違反等による不法行為責任の有無について(争点2)
1 変額保険について
《証拠略》によれば、次の各事実が認められる。
(一) 変額保険の性質
(1) 変額保険は、国民の金利選好の高まりや高齢化の進展による生存保障の需要の増大を背景に(昭和六〇年五月の保険審議会答申)、インフレ対策も兼ねて、経済成長に伴う成果を契約者に直接還元することを企図した保険商品として開発され、昭和六一年七月に大蔵省の認可を得て、同年一〇月から販売が開始されたものである。
(2) 変額保険と通常の定額生命保険を対比すると、<1>保険事故(一定の財政的危機をいう。)の種類が共通するほか、<2>保険期間について、終身型(死亡・高度障害を保険事故とするもので、保証する期間を限定する満期がないもの)と有期型(責任開始日から満期までの死亡・高度障害及び満期の日の生存を保険事故とするもの)があること、<3>保険金(保険事故の発生に対し保険者(保険制度の利用者から支払われる保険料の管理・運営及び保険料の支払を担当する者)から支払われる金額をいう。)について、終身型は死亡・高度障害保険金のみであるが、有期型は満期までの死亡・高度障害保険金及び満期保険金(満期の日の生存に対して支払われるもの)があること、<4>保険料(保険制度を利用しようとする者の負担・拠出金をいう。)の支払方法について、一時払(契約申込時に保険期間の全期間分を一括して支払うもの)、年払、半年払、月払があること、<5>保険金額と保険料の金額は、被保険者の性別・年齢によって決定されることにおいて、両者に差異はない。
(3) しかし、変額保険は、保険加入者から払い込まれる保険料のうち、一般勘定に組み入れる部分を除いた積立金を特別勘定として独立に管理し、これを主に株式や債券投資によって運用し、その運用実績にしたがって保険金(死亡保険金、高度障害保険金、満期保険金)及び解約返戻金が増減、変動することに特質を有する。
もっとも、変額保険も死亡・高度障害という保険事故の際の経済的危難に備えることを主たる目的とするため、運用実績が悪い場合でも、最低保証金額(基本保険金)が定められているが、満期保険金及び解約返戻金については最低額すら保証されていない。
すなわち、従来の定額生命保険においては、保険会社が安全性重視の運用を行い、保険加入者は、一定額の保険金額及び解約返戻金の支払が保証されており、資産運用の変動による危険を保険会社が負担しているのに対し、変額保険は、特別勘定の運用実績により高い収益をえられる場合もあるが、株価や為替等の変動による危険を保険加入者が負担することが、その特徴である。
(二) 変額保険の募集上の規制等について
(1) 変額保険は、右(一)(3)のように保険契約者に危険の負担が求められること、従来の保険と異なって、仕組み等も複雑で理解の困難な点があるために、消費者保護の見地から、その募集をなし得る者を登録を受けた生命保険募集人等に限定し(募取法九条。同法は、平成七年改正保険業法により廃止され、同旨の規定が改正保険業法に定められた。以下同様である。)、その違反については罰則が設けられている(募取法二二条一項一号)。また、大蔵省は昭和六一年七月一〇日付け通達(蔵銀一九三三号。甲第九号証)において、変額保険の募集に関し、<1>将来の運用実績についての断定的判断の提供、<2>特別勘定の運用実績について、募集人が恣意的に過去の特定期間のみをとりあげ、それによって将来を予測する行為、<3>保険金額(死亡保険金の場合には最低保証を上回る金額)あるいは解約返戻金額を保証する行為を特に禁止事項として明記した。
(2) 訴外生命保険協会(以下「生保協会」という。)は、生命保険業界の自主規制として、次のような措置を講じた。
イ 変額保険の募集にあたる生命保険募集人自身については、変額保険資格試験に合格して、生保協会に登録された者だけが変額保険を販売することができるものとする。
ロ 変額保険を募集する際には、<1>保険金額の増減と基本保険金額(最低死亡保証額)の関係、<2>資産運用方針、投資対象、<3>特別勘定資産の評価方法、<4>特別勘定の運用実績が、〇パーセント、四・五パーセント、九パーセントの場合についての保険金額の試算例、<5>解約返戻金額及び満期保険金額は最低保証がないことの五項目につき、必ず顧客の確認を求めるものとする。
(3) さらに、生保協会は、自主的運営ルールとして、「募集文書図画作成基準」を設け、募集の際に使用する文書(募集文書図画)を、予め生保協会に登録しなければならないものとし、登録を受けていない資料を使用することを禁じ、特に特別勘定の運用実績を示す資料については、その試算例を〇パーセント、四・五パーセント、九パーセントの三通りに限ることとした。
2 変額保険と「相続税対策」について
(一) ところで、変額保険は、本来、インフレによる保険金額の目減りを避けることができる点に利点があるが、わが国では保険料を銀行から借入れて一括払い込むことによって、土地所有者の相続税対策とすることを目的として契約する例が多く見られた。
銀行からの借入金によって保険料を一括して払込んで変額保険に加入することが相続税対策になりうる根拠は主に次の点にあるとされている。
第一に、借入により債務すなわち負の財産が増加するから、相続財産の評価を下げることができること、第二に、被保険者を相続人とする場合、変額保険の権利評価が払込保険料額と評価される結果(相続税法二六条一項但書)、変額保険の保険金ないし解約返戻金が運用により払込保険料を上回るに至った場合でも、これと払込保険料と差額部分は課税対象とならず、いわゆる含み益が生じること、第三に、相続財産中の不動産に課税される相続税の支払を変額保険の保険料又は解約返戻金によってまかなうことができる。
(二) しかし、相続税対策とは、要するに、相続税の負担を軽減することにより、相続人が現実に取得する相続財産の価値を増助させることに他ならないところ、右第一の点については、単に債務が増加するのみでは相続財産が減少するだけでは何ら相続税対策にはなり得ないのであって、相続税対策となり得るには債務が増加する一方で少なくともその債務額に相当する以上の資産が増加することが必要となる。
すなわち、変額保険への加入が「相続税対策」足り得るには、変額保険自体が保険料及び銀行からの借入金に対する利息の合算額よりも高額の資産的価値を有していなければならない。
(三) また、第三の点は、被保険者を被相続人である契約者とした場合(以下「第一型」という。)であれば、その死亡により、少なくとも基本保険金の支払がなされ、相続税支払のための現金が準備されることとなり、また、死亡又は高度障害の場合の保険金は、支払保険料よりも高額であるから(本件変額保険契約参照)、右保険金によって銀行に対する借入金債務を返済できることになる (ただし、利息部分については、死亡時期によっては返済できない場合がありうる。)。
ところが、被保険者を相続人又はそれ以外の者とした場合(以下「第二型」という。)、契約者が死亡しても、基本保険金は支払われず、契約者の地位も相続人に移転するとともに、銀行融資についての債務者の地位が承継される。したがって、第二型の場合、相続人が借入金の返済が可能かどうかは変額保険の運用次第ということになる。
このように、第一型と第二型との間には、相続税対策という観点から見ると、見過ごすことのできない差異が存在する。
そして、相続人が納税資金を捻出するには、他に現金資産等を有しない限り、結局、変額保険を解約し、その解約返戻金を充てざるをえないのであり、逆に、右のような現金資産等が他にある場合には、変額保険に加入することによって納税資金を準備するという「相続税対策」を講じる必要性がなかったことになる。
なお、被相続人を被保険者とすることは、保険事故が生じたことによって保険金が相続財産を増加させることになるから、契約者の財産について「相続税対策」を行うという当面の経済目的の実現にとって意味をなさない。
(四) 以上によれば、銀行からの借入金を保険料として支払って変額保険に加入することが、相続税対策として有効に機能するためには、<1> 相続税の支払に充てる現金資産等を他に有していること、<2> 変額保険の解約により支払われる解約返戻金が、少なくとも支払保険料に銀行利息を加算した額と同額以上でなければならないことになる。
そして、相続財産としての変額保険の資産的価値は、支払保険料によって評価されるから、変額保険の特別勘定の運用実績が悪く、その資産的価値が支払保険料にも満たない場合には、むしろ、相続税が過大に算定されることになって、相続税の負担が増大するため、相続税対策としては用をなさないこととなる。
このように、変額保険に加入する方法は、相続税の負担軽減の方法として確実性がなく、保険の運用実績によってはかえって相続税の過大な負担を招来するおそれが存在するのであり、借入金によって保険料を支払う場合、相続財産の評価を下げる反面、融資利息の増大とその支払の可否という新たな危険が付加されるなど、相続税対策としてはその有効性に疑問が残る方法といわざるを得ない。
3 募取法九条違反について
前記のとおり、被告石原は、原告に対し、顧客に対する単なるサービスの一環として保険を紹介する域を越え、本件各変額保険への加入を積極的に勧誘しているとみられる。
ところで、募取法九条により、変額保険の募集をなし得る者を登録を受けた生命保険募集人に限定し、右登録を有しない者による保険の募集行為を禁じているところ、被告石原は右保険募集の資格を有していない。
しかし、同条にいう「募集」とは、保険契約締結に至る過程の内、その中核的行為である保険料・申込書を預かって保険会社に提出する行為を指すものと解される。そうすると、被告石原による右勧誘は、同条により禁止された募集行為に該当するとはいえないし、仮に、被告石原の原告に対する勧誘行為が、募取法九条の趣旨に照らして相当でないとしても、これによって、被告石原の右行為が私法上も直ちに違法となるわけではなく、不法行為を構成するとは認められない。
したがって、これと異なる前提に立つ原告の主張は採用することができない。
4 説明義務について
(一) 被告石原の説明義務
(1) 前記のとおり、被告石原は、原告に対し、本件各保険契約に加入し、その保険料を本件消費貸借による借入金によって支払うことが「相続税対策」として有効であると説明して、原告をして被告第一勧銀から四億三〇〇〇万円もの借入をさせている。
元来、顧客と銀行との消費貸借契約と生命保険会社との変額保険契約は、法主体も契約内容も異なるものであって、全く別個の契約であり、消費貸借契約がなければ変額保険契約がなく、変額保険契約がなければ消費貸借契約が存在しえないという関係にないことは明らかである。
したがって、特段の事情のない限り、銀行が融資された資金の使途に関して説明義務を負うことはなく、また、保険会社が融資に関して何らかの説明義務を負うことはないと言わなければならない。
(2) しかし、本件において、原告が被告第一勧銀からの借入金により保険料を支払って本件各保険に加入することは、「相続税対策」という目的のために主観的・機能的に密接な関連性を有する。
すなわち、相続税対策という経済的目的を実現するために変額保険に加入する場合、銀行からの借入金によって変額保険の保険料を支払うことが「相続税対策」の手段として予定されている。そして、銀行は、変額保険の保険料の融資ということで高額の融資を行うことができ、生命保険会社も、銀行が高額の融資をするから高額の変額保険への加入者を獲得することができ、契約者も、相続税対策という目的のために、そのような高額の両契約を締結するのであって、銀行からの借入れと変額保険への加入は極めて密接な関連性を有している。
(3) 被告石原は、伊丹支店における従業員の勉強会の資料としてアリコジャパン発行の「PF型相続対策・ファイナンスプラン」と題する書面(甲第一号証)のコピーを配布していたが、右書面においては、銀行からの借入金によって保険料を支払って変額保険に加入することが相続税対策として有効であると推奨されている。被告石原は、右書面は顧客サービスの一環として資産家からの「相続税対策」に対する相談の参考にするために配布したと供述する。しかし、被告石原が他の相続税対策の方法について資料を配付したことを窺うことはできないのであり、相続税対策として、銀行からの融資により保険料を支払って変額保険に加入することを推奨することは、これが実現すれば、直ちに銀行の融資業務の拡大につながることから、銀行の融資業務の拡大に変額保険を利用しようとして配布したものと推認するのが相当である(被告石原は、赤坂支店及び伊丹支店において変額保険を勧誘し、多額の融資業務を成功させている。)。
したがって、相続税対策としての変額保険の推奨ないし勧誘は、被告第一勧銀にとって顧客に対する一般的なサービスの範囲を越えて、直接銀行業務の拡大につながる方策であったと認めるのが相当である。
伊丹支店の檀支店長は、本件各契約締結に関して何らの役割を果たしていないにもかかわらず、本多が招待した芝苑での宴席に出席していることも、この間の事情を示唆するものと思われる。
(4) さらに、被告石原は、原告に対し、被告第一勧銀からの融資により保険料を支払って変額保険へ加入することを積極的に勧誘し、本件各保険契約締結に至るまで主体的に関与し、変額保険の基本保険金額や被告第一勧銀からの借入金額、利息の支払方法等も実質的に指示し、本多と共に互いの行為を利用し合って本件各契約の締結に及んでいるとみられる。
このように両契約が密接に関連し、銀行が変額保険の締結に深く関与している場合、銀行は、消費貸借契約の内容について説明することはもちろんのこと、信義則上、変額保険の内容、危険性についても説明すべき義務が生ずるというべきである。
(5) 本件において、被告石原は、原告に対し、四億三〇〇〇万円もの高額の消費貸借契約を締結するために、積極的に変額保険を勧誘し、原告をして本件各保険に加入させている。本件保険契約と本件消費貸借契約との密接な関連性、被告石原の果たした役割等を考慮すると、被告第一勧銀又は被告石原には、信義則上、契約者(借主)の理解能力等に照らして、変額保険の仕組み、危険性、借入利息の関係、契約者死亡後どのような法律関係になるかなど、正確に具体的に説明すべき義務が生ずるというべきである。ただし、その際、原告の理解能力には、原告に依頼されて同席した者の理解能力も加味して考慮すべきであるし、説明義務を尽くしたか否かは、保険会社の担当者の説明も加味して考慮すべきものというべきである。
(6) なお、銀行行員には保険の募集資格を有していない(募取法九条)。しかし、右規定は、銀行行員が変額保険について説明することを禁じたものでなく、保険募集資格のないことをもって説明義務を免れることはできないと解すべきである。
(二) 本多の説明義務
(1) およそ証券取引のような相場取引への投資は、投資者自身が自己の判断と責任の下に、当該取引の危険性等を判断して行うべきもので、それによる損害は、本来、投資者自身が負担すべきものである(自己責任原則)。
しかし、証券会社と一般投資家との間において、証券取引についての知識・経験、情報収集能力及び分析能力において格段の差異があり、一般投資家が専門家である証券会社の提供する情報や助言等に依存して投資を行わなければならず、他方、証券会社は一般投資家を取引に誘致することで利益を得ているという実態に照らすとき、一般投資者が自己責任を全うするためには、適切な情報が提供されていることが前提となる。
したがって、証券会社には、証券取引を勧誘するに際し、信義則上、相手の理解能力などに照らしながら当該取引の仕組みや危険性について説明する義務を有すると解される。
変額保険も、保険料の一部が特別勘定に組み入れられ、それが株式・債券市場によって運用され、かつ、その得失が契約者に帰属し、契約者の自己責任原則が求められるものである。しかも、変額保険自体の仕組みが必ずしも簡明ではなく、従来の変額保険とはその内容を全く異にするものである。平成元年当時、変額保険は一般的に周知されていたものではない(公知の事実)から、証券取引の場合と同様に、保険会社には、信義則上、変額保険の仕組み及び危険性、特に、定額保険と異なり、基本保険金は保障されているものの、特別勘定の運用により保険金や解約返戻金が変動し、これが支払保険料を下回る危険性があることについて契約者の理解力に合わせて十分に説明する義務を負うというべきである。
(2) 銀行からの借入金をもって、変額保険の保険料に充てた場合であっても、銀行との消費貸借契約と変額保険契約とは別個のものであるから、生命保険会社は、変額保険の内容、危険性を説明する義務を有するのは当然として、本来、消費貸借契約の内容、危険性についてまで説明する義務は負わないのが原則である。
しかし、前記のとおり、本件において、相続税対策という経済目的を実現するためには、銀行からの借入と変額保険への加入がいわば「セット」になっており、密接な関連性を有している。被告第一勧銀(担当者・被告石原)も被告第一生命(担当者・本多)も、借入金が変額保険の保険料の原資となることを十分に認識し、かつ、極めて高額の契約を締結するために相互に利用し合って本件各契約を締結したのであって、各契約の関連性及びある契約の当事者が他の契約の締結にも関与の度合いはいずれも極めて大きいというべきである。
このような状況に照らすとき、被告第一生命は、本件消費貸借契約の効果や危険性、本件変額保険との関連性等についても、説明すべき義務があるというべきである。
(3) 説明義務は契約者の自己責任を全うするため信義則上発生するものであるから、その程度は、契約者の知識、経験の程度に基づく理解能力等に照らして決せられるべきである。
そして、契約者とともに、契約者が依頼した者が同席して、説明を受けた場合には、その同席した人の理解能力も加味して判断するべきであり、さらに、銀行融資と変額保険契約の密接な関係があるとき、銀行側で行った説明によって、契約者が事前にある程度の知識を有するに至った場合は、その知識も考慮すべきであるが、生命保険会社としては、信義則上、先行する銀行側で行った説明の正確性等について簡単な質問を発するなどして碓認する作業をすべき義務があるし、仮に誤った知識を前提に変額保険の加入することを認識した場合は、その知識を正確なものに修正すべき義務がある。
5 被告石原及び本多の勧誘方法について
(一) 被告石原は、原告に対し、東京の八百屋の例を持出して相続税対策の必要性を説いた上、変額保険以外の方法はあまり得策でないとして、変額保険への加入を勧誘した。被告石原は、原告に対し、変額保険の仕組みや保険金及び解約返戻金の額が変動することなどについて一応言及しているが、変額保険の特別勘定の運用実績が保険料全体についての利回りとは異なっているのに、これを特別勘定の運用実績として銀行の利率と比較するなど誤った説明をしたり、保険金や解約返戻金の額が変動する危険について、甲第一、二号証や日経マネー誌を示し、原告に対し、高い運用実績があるとの印象を与えている。
また、運用はプロがするから大丈夫等と述べて全体として確実に利益が生じるかのように説明している。
被告石原は、原告が利息を負担しなくてもよいと述べ、変額保険の保険金又は解約返戻金が銀行からの借入金の元利合計額よりも必ず高額になることを前提に、相続税法上変額保険の資産価値が支払保険料と同額と評価されるから含み益が生じると説明し、特別勘定の運用実績が悪い場合には含み損なることを軽視し、利点のみを強調した。本件各保険は、相続人が被保険者となる第二型であるため、契約者である原告が死亡しても保険金が支払われるわけではないから、相続税の納税資金の捻出方法としては、他から資金を調達する場合は格別、本件各保険を解約してその返戻金によって納税資金及び借入金の元利金を調達することになるため、「相続税対策」として、効を奏するか否かは特別勘定の運用次第であるにもかかわらず、その点を十分説明しなかった。
これらの被告石原の勧誘方法は、全体としてみれば、変額保険の募集に関し、大蔵省で禁じられている変額保険の将来の運用実績についての断定的判断の提供に該当し、また、生保協会が自主的に規制している私製図画を資料として使用した勧誘に該当するといわざるを得ない。
また、被告石原は、本多の説明や変額保険契約締結の場に立ち会い、被保険者である秋夫が住む松山まで出張し、告知の場に立ち会ったり、芝苑での宴会にも出席している。
(二) 原告は、前記のとおり、以前、丙川の代表取締役をしたこともあり、株式取引、土地取引、被告第一勧銀から融資を受けた経験も有しているが、平成元年九月当時、丙川の退職後、約一〇年が経過しており、その間、原告は無職の状態で経済的な活動から遠ざかり、版画等趣味に埋没する生活をしていたこと、当時、八二歳であったこと、保有株式は相続により取得したものが主で、ほとんど売却せずに長期にわたって保有する性向を有し、投機的な取引は行っていないこと等によれば、その理解能力は、通常人と異なるところはなく、特に理解能力に秀でているとまでみることはできない。また、春子についても同様と認められる。
(三) 本多は、原告との会話から原告が変額保険に加入の意思を固めていることを知り、右契約締結の意思が翻意しないように、原告が変額保険について既にどの程度の知識を有するか否か、被告石原からどの程度の説明を受けていたか等を碓認することもなく、変額保険について一通り説明したにすぎない。また、本多又は松岡は、原告の資産や職業等について、自ら原告に尋ねずに、石原から聞いたことを基礎にして変額保険申込書等にそれらの事項を記載している。
(四) 右の一連の流れに鑑みると、被告石原は、原告に対し、原告の被告第一勧銀に対する信頼を背景に、高額の消費貸借契約を締結するために、高額の変額保険を加入することを相当強く勧誘していると評価することができるのであって、本件変額保険の勧誘は被告石原が主導権を握っており、本多はこれに追随し、本件各保険契約の締結のために被告石原の行った変額保険に関する説明及び勧誘の成果をそのまま自己のものとして利用し、本件各保険契約の締結に至っているものである。
したがって、本多は、原告に対する変額保険への加入の勧誘について、勧誘のために特段の発言等を行っていないが、右のように被告石原の先行行為を認識しながら、これを利用している以上、本件各保険契約について被告石原の行った勧誘行為についても本多が勧誘したものと同様に評価することができる。
そして、被告石原の説明とは別個に、本多は、原告に対し、変額保険の仕組みや危険性について、正確に認識できるように十分に説明する義務がある。
変額保険設計書には、変額保険は「特別勘定」の運用実績によって保険金額が変動することなどが記載されているが、保険料が極めて高額であり、原告の負担すべき危険も極めて大きいことに照らすと、単に変額保険設計書のみを交付しただけで説明義務が尽くされているということはできない。契約のしおりは、これが交付されてすぐ変額保険契約が締結されたのであって、契約のしおりの内容について事前に何ら口頭で説明もしていない。
(五) ところで、本多は、被告石原の勧誘の成果をそのまま自分のものとして本件各保険契約を締結しているから、原告に対し、変額保険の仕組みや相続税対策との関連性について簡単な質問を発するなどして、被告石原が行った説明の内容や原告が誤った知識を有していないかを確認のうえ、誤った知識を有しているのであれば、これを修正するように十分に説明すべきであり、これを行わないまま、変額保険設計書や契約のしおりを交付し、とおりいっぺんの説明をしただけでは説明義務を尽くしていたということはできない。
(六) 以上のとおり、本多及び被告石原は、信義則上、本件各変額保険の仕組み及びその危険性並びに本件消費貸借と組合わせられた際に生じる危険性等について、説明義務を尽くしておらず、被告石原の右勧誘行為は、大蔵省令及び生保協会の自主規制に反するものであって、私法上も違法といわざるを得ず、原告に対し、不法行為を構成する。
したがって、被告石原は、本件勧誘行為によって、原告が被った損害を賠償すべき義務がある。
(七) 本多は、被告第一生命の従業員であり、その業務の執行のために右のような行為を行ったのであるから、被告第一生命は、原告に対し、民法七一五条に基づき右金額を賠償する義務を負う。
(八) 被告石原は、被告第一勧銀の従業員であり、その業務の執行のために右のような行為を行ったのであるから、被告第一勧銀は、原告に対し、被告第一生命及び被告石原と連帯して、民法七一五条に基づき右金額を賠償する義務を負う。
五 損害等について
1 損害額 一億六四四三万六〇七四円
原告は、被告石原及び本多の勧誘行為によって、本件各保険に加入し、その資金として被告第一勧銀との間で本件消費貸借契約を締結し、また、根抵当権を設定し、被告第一勧銀に対し、本件消費貸借に基づいて一億六二六一万六〇七四円(平成六年八月二二日に利息金として一億三二七四万二三三五円、平成七年一〇月一八日に元金の一部として二九八七万三七三九円)及び根抵当権設定登記費用として一七二万円を支払ったほか、本件消費貸借契約書作成の印紙代として一〇万円を負担し、以上の合計金一億六四四三万六〇七四円の損害を被った。
なお、遅延損害金の起算日は、原告が被告第一勧銀にこれらの金員を支払った最終日である平成七年一〇月一八日である。
2 過失相殺
本件において、原告は、被告石原や本多から、本件各契約の締結に際し、相続税対策になるとの説明を受ける一方、本件各保険の解約返戻金等が変動するものであると説明され、その旨記載された変額保険設計書の交付を受けている。
すなわち、原告としても変額保険の解約返戻金等の額が運用実績に応じて変動し、変額保険自体に危険性があることは抽象的に認識していたが、被告石原及び本多の説明により、危険性の現実化やその打撃の深刻さについて正確な認識の形成が妨げられたに過ぎない。
本件各契約締結当時、変額保険の危険性の現実化について正碓な認識を有していなかったことは、被告石原及び本多においても同様であって、原告が損害を被ることは予想していなかった。
そうすると、本件各契約の締結によって原告が被った損害をすべて被告らに負担させることは公平を欠くことになる。
前記認定の本件各契約の締結の経緯、被告石原らの説明及び勧誘の態様、原告が解約返戻金等の変動の可能性自体は認識していたこと等の事情を考慮すると、原告に対し、その損害の二割を負担させるのが相当である。
被告石原や本多の変額保険の勧誘行為における違法性(説明義務違反)の程度に比べれば、その過失の程度は小さく、その他、前記のような本件契約の経緯、説明態様等に照らせば、原告の過失割合は二割とするのが相当である。
(損害額小計 一億三一五四万八八五九円)
3 弁護士費用、一〇〇〇万円
本件の認容額、難易性等を考慮すると、本件不法行為と相当因果関係にある損害としての弁護士費用は右金額とするのが相当である。
(損害額合計 一億四一五四万八八五九円)
六 結語
よって、原告の請求は、被告第一生命に対する不当利得返還請求は理由がなく、被告らに対し、連帯して、不法行為に基づき、一億四一五四万八八五九円及びこれに対する平成七年一〇月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その範囲で認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 林 醇 裁判官 亀井宏寿)
裁判官 桂木正樹は、転任のため、署名押印できない。
(裁判長裁判官 林 醇)